伝統を守り続ける英国の名門 トリッカーズの歴史と軌跡
1829年創業のトリッカーズは、イギリスで最古のシューメーカーであることを誇りとしています。現在でもノーサンプトンの自社工場において一貫生産されているトリッカーズのフットウェアは「質実剛健」と称され、その職人技でロイヤルワラント(英国王室御用達)の栄誉を授かるまでに。モノづくりと真摯に向き合い時代と共に歩んできた老舗ブランドの軌跡を辿ります。
1829年 創業

ジョセフ・トリッカーがTricker’s(トリッカーズ)を設立したのは1829年のことです。この年、イギリスではロバート・ピールがロンドン初の制服警官隊を創設。アメリカでは若きエイブラハム・リンカーンが初めて政治演説を行ったといわれており、フランスではルイ・ブライユが点字を発明しました。ヴィクトリア女王が即位する8年前に当たります。彼がトリッカーズを創業した1829年という年は、近代世界の誕生や偉大な啓蒙、学問、そして社会改革を目の当たりにする時代の中にあったのです。
1840年

イングランドの中心部に位置するノーサンプトンは、製靴産業の聖地として長い歴史を持つ町です。
この町では靴の需要拡大に伴い、1840年の時点で1,800人以上の靴職人が存在していたそうです。
ジョセフ・トリッカーの義理の息子であるウォルター・ジェームズ・バールトロップは、1848年にわずか7歳でこのブーツのモデルを製作。シンプルな構造のブーツは、今日多くの人々から愛されるカントリーブーツの先駆けとなるものだったそうです。1840年は、ブリタニア号が蒸気動力で大西洋横断航路に就航し、ネルソン記念塔が建造されるなど、他にも革新が見られた年でした。
1904年

ノーサンプトンのセントマイケルズ通りに建設されたトリッカーズの工場は、1904年に操業を開始。バールトロップがニューヨークへの買い付けから戻った後、20世紀初頭にはトリッカーズ社にグッドイヤーウェルト製法の機械が導入されました。この機械によってアッパーと中底のみの縫合が可能となり、アウトソールを同時に縫い付ける必要がなくなりました。長年トリッカーズが守り続けてきた手縫いによる製法だけでなく、機械の力を用いることで洗練された完成度の高い靴を作ることができるようになったのです。この機械を開発したチャールズ・グッドイヤーJr.は、紳士靴の歴史に新たな転換点をもたらした人物として広く知られています。
1926年

トリッカーズのカントリーブーツは初期の仕様から急速な変化を遂げ、やがて今日親しまれているクラシックなフォルムへと辿り着きました。防水性・耐久性といった実用面やその履き心地により、イングランドではもちろん、イギリス中の農民たちからの信頼を得るようになったのです。トリッカーズは重厚なブローグシューズとブーツで人気を博し、郊外でのウォーキングやタウンユースに重宝される一方、ハンティングシューズとしても広く愛されました。1926年といえば、ブルックランズでイギリス初のモーターグランプリが開催され、ジョン・ロジー・ベアードがテレビで初めての遠隔放送に成功。のちの女王エリザベス2世が生誕した年でもあります。
1989年

トリッカーズのフットウェアは、その高いクオリティと履き心地、そして個性的な佇まいや独特の風合いで広く愛されています。なめし工程を改良することで革の耐久性向上を図り、さらに製造工程を進化させてフィット感や快適性を高めました。その結果、足の形状にフィットする類いまれな靴が生まれたのです。オリジナリティあふれるトリッカーズのカントリーシューズとブーツは、その品質や個性において他の追随を許しません。そしてトリッカーズは1989年、ウェールズ公チャールズ殿下(現国王チャールズ3世)によりロイヤルワラント(英国王室御用達)の栄誉を授かるに至りました。
2019年

イギリス最古のシューメーカーであるトリッカーズにとって、2019年は190周年という節目の年。1月にはノーサンプトンの工場にウェールズ公チャールズ殿下(現国王チャールズ3世)を迎え、記念銘板の除幕式を行いました。1829年の創業以来、トリッカーズは卓越した品質の靴を作るという揺るぎない信念を貫いています。時代と共に製造工程が変化しても、これまで職人たちに受け継がれてきた伝統的な技法は頑なに守り続けられています。唯一無二の存在として愛され続けるトリッカーズのブーツやシューズの礎には、先人への敬意とたゆまぬ研鑽が確かに存在しているのです。

